紀友則

時を超える恋の詩～紀友則～

世の中には、家業や先祖代々役職の家系など、血に束縛されて人生を生きる人々がいます。彼らは一族の誇りのために自ら選んだ人もいれば、そうせざるを得なかったという人もいます。
寛平期、代々官職の家系でしたが高齢になるまで職に就かずに大好きな歌を歌っていたとんでも歌人、紀友則。現代でいうニート・・・にあたる彼は、その才能だけでどんな生き方をして、どんな恋をしていたのでしょうか？

“夕されば　蛍よりけに　燃ゆれども　ひかり見ねば　人のつれなき”

（夕方になると、私の思いは蛍よりひどく燃えるのだけど、蛍と違って光が見えないから彼女は冷たい態度をとるのだろうか。）

“川の瀬に　なびく玉藻の　みがくれて　人に知られぬ　恋もするかな”

（川瀬になびく藻が水中に隠れて見えないように、人に知られないように恋をしているのです。）

“ことにいでて　言はぬばかりぞ　水無瀬川　したにかよひて　恋しきものを”

（言葉に出して言わないだけなんだ。ぱっと見水が無いように見える水無瀬川のように、心だけは思う人のところへと流れて恋しいと思うのに。）

“命やは　何ぞは霞の　あだものを　逢ふにしかへば　惜しからなくに”

（命なんて何だ！霞のように儚いものじゃないか。あの人と逢うことに変えられるのなら惜しくわないのに・・・）

その他にも紀友則が歌った恋の歌は約20首。そのほとんどが、人知れず恋をする苦しい思いを抱いた男性の歌です。官職に就いている家系に生まれながら、彼が実際に官職に就いたのは40代後半頃だったと言われています。それまでずっとニート状態だったわけですから、叶わぬ恋はたくさんあったのだろうと想像ができますね。
しかも、当時の平均年齢は35歳前後と言われているので、紀友則は定年後に初めて就職したことになりますので、現代と比較して考えてみるとゾっとしてしまいます！

ただ、それでも彼の歌才は若いころから多くの貴族たちや新王に認められていて、恋の歌以外にも多くの素晴らしい歌を残しています。歌集を出しているくらいですから、無理に官職に就かなくても良かったのかもしれません。
そして、切ないけれどとてもロマンチックで情熱的な歌を歌っていたことから、きっと多くの女性の心を掴んでいたのではないでしょうか？

「ニートでも才能あれば生きていけるし恋愛だってできる。なんも問題ない！」

彼が現代に生きていればそんな言葉で若者たちを勇気づけてくれたかもしれませんね！

詠み人プロフィール

紀友則（き　の　とものり）
承知12年（845年）頃-延喜7年（907年）頃

平安時代前期の歌人・官人。父は宮内権少輔・紀有友（有朋）。子に清正・房則がいる。紀貫之の従兄弟にあたる。官位は六位・大内記。三十六歌仙の一人。
紀貫之・壬生忠岑とともに『古今和歌集』の撰者となったが、完成を見ずに没した。『古今和歌集』巻16に友則の死を悼む貫之・忠岑の歌が収められている。『古今和歌集』の45首を始めとして、『後撰和歌集』『拾遺和歌集』などの勅撰和歌集に計64首入集している。歌集に『友則集』がある。