紀貫之

時を超える恋詩～紀貫之～

数百年の時を超えて現代に恋愛の切なさ、甘酸っぱさ、そして成就させようとする努力が自分を磨いていく原動力になることを教えてくれる恋の歌。
人によって表現も多彩で、きっとマネしたくなるテクニックがあるかも！！
今日の歌人は平安時代、最も敬愛された偉大な歌人「紀貫之」の和歌から。

“世の中は　かくこそありけれ　吹く風の　目に見ぬ人も　恋しかりけり”
（人の世とは、かくも不思議なものですね。吹く風のように目に見えない人を恋しいと思うのだから。）

“山ざくら　霞のまより　ほのかにも　見てし人こそ　恋しかりけれ”
（山ザクラが霞の間からほのかにみえるように、チラっと見ただけのあの人が恋しくてたまらない。）

“秋風の　稲葉もそよと　吹くなへに　穂にいでて人ぞ　恋しかりける”
（秋風が稲の葉をなびかせることで、穂が出ていると人目にもわかるように、私の表情に表れてしまうほど、あの人が恋しいのです。）

“君恋ふる　涙しなくは　唐ころも　胸のあたりは　色もえなまし”
（あなたを恋して流す涙がなかったら、私の胸回りの衣はきっと恋の火の色で燃えていたでしょう。）

“真菰刈る　淀みの沢みづ　雨ふれば　常よりことに　まさる我が恋”
（真菰を刈る淀沢の水は、雨が降れば水かさが増すように、いつもより増すあなたへの私の恋心なのです。）

紀貫之は仮名を使った仮名序の執筆から、後の女流文学の礎ともいうべき『土佐日記』など、その文才の豊かさや、日本文学への貢献度から最も敬意を払われ、また絶対的権威者でありました。
そんな彼は季語でも特に自然や植物を使った表現がとても多いですね。

当時は、噂だけで逢ったこともないのに相手に恋をしてしまうということがメジャーでした。小野小町が良い例ですね。「小野小町はその美しさだけでなく、文才までも兼ね備えている才色兼備の女流歌人である」という噂を聞いた男性たちが、みな自分の中の小野小町を作り上げ、堪らずに求愛の歌や貢物を送ったと言われています。
それぐらい顔がよく見えなくても、噂だけの人であっても、「きっとこんな女性に違いない・・・」と期待を膨らませ、恋を抱いていた歌が多いのです。なんだかリアル女性と恋をしない現代男子と似ているところがありますね。

それでも、一たび出逢って燃え上がれば、その気持ちはどうにもできないものらしく、

「好きで表情に出ちゃってんな～まいった」

「なんでもっと簡単に逢えないのかな。逢いたいな。」

「男泣きってやつがなければ、引っ込みつかなかったよ・・・」

「チラッと見えただけだったんだけど、超タイプだったな～何してんだろ」

そんな繊細な男心が垣間見れる歌でした。
紀貫之のように、繊細だけれど情熱的な表現で自分の気持ちを伝えてみましょう！