凡河内躬恒

HOME > 名言から恋愛観を磨く > 時を超える恋歌 > 凡河内躬恒

凡河内躬恒

時を超える恋の詩～凡河内躬恒～

今も昔も、人々が紡いできたのはいつだって大切な誰かに捧げる恋の歌でした。
恋多き平安の人々の恋の歌から恋愛観を磨いていく、歴恋コーナー『時を超える恋歌』。本日は三十六歌仙の一人、凡河内躬恒（おおしこうちのみつね）の歌からです。

“初雁のはつかに声を聞きしよりなかぞらにのみ物を思ふかな”

（初雁の声を耳にするように、あの人の声をほのかに聞いてからというもの、うわの空で物思いをしてばかりだよ）

“うつつにも夢にも人に夜し逢へば暮れゆくばかり嬉しきはなし”

（現実でも夢でも恋人とは夜に逢うので、日が暮れて行くことほど嬉しいことはない）

“わが恋はゆくへも知らず果てもなし逢ふを限りと思ふばかりぞ”

（この恋は、行方もわからず、果ても知らない。ただこれだけは言える、今はただ、あの人と逢うことが終着点と思うばかりなのだ。）

“わがごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世をこころみむ”

（私が相手を想うように私を想ってくれる人がいてほしい。それでも人と人の仲はわずらわしいものかと試してみたい）

凡河内躬恒は次世の紀貫之と言われたほど、文才も、紀貫之との繋がりも深い歌人の一人でした。彼自身の歌集も出している実力派歌人の凡河内躬恒。
冒頭の歌の初雁（はつかり）とは秋に戻ってくる渡り鳥のことで、その鳥が遠くでかすかに鳴いている声のように、自分の恋人の声がほのかに聞こえ、ついつい思いふけってしまっているという意味です。

また最後の歌では、どんなにお互いに強く思いあっていても、人と人の仲なのだから煩わしく感じるものかを試してみたいと、自分が思っている相手ならば、相手もまた同じくらい自分のことを想ってくれているに違いないのだから、喧嘩をしたり別れてしまうようなことにはなりはしまい・・・という繊細な男心の願いのようなものを感じますね。

多くの女性歌人が歌を残した平安時代ですが、女性の歌が情熱的なものに対して、男性の歌はとても繊細な気持ちを表した歌が多いようです。
「いい加減なヤツ・・・」「無神経！」と、目くじら立ててしまいがちな現代女子。日本人男性って実は、繊細な心を持った遺伝子を平安時代から引き継いでいるセンシティブな人種なのかもしれません！「女々しい」や「草食系・・・」などと言わずに、彼らの隠れた気持ちを包んであげられる女子力を磨きましょうね！

詠み人プロフィール

凡河内躬恒（おおしこうち　の　みつね）
貞観元年（859年）頃-延長3年（925年）頃

平安時代前期の歌人・官人。姓は宿禰。一説では淡路権掾・凡河内諶利の子。三十六歌仙の一人。官位は六位。
延期5年（905年）頃に紀貫之・紀友則・壬生忠岑と共に『古今和歌集』の撰者に任じられる。歌合や賀歌・屏風歌において活躍し、宇多法皇の大堰川行幸（907年）、石山寺御幸（916年）、春日社参詣（921年）などに供奉して和歌を詠進した。官位は低かったものの、古今和歌集への58首をはじめとして勅撰和歌集に194首入集するなど、宮廷歌人としての名声は高い。家集『躬恒集』がある。