素性法師

時を超える恋の詩～素性法師～

前回は、平安時代の福山雅治、遍照の歌から「男は女の気持ちはわからないだけの人たちだけではない！」というお話をしました。
当時、六歌仙にも数えられるほどの超有名歌人であった遍照ですが、実は彼には息子がいたのです。遍照の才能を惜しむことなく受け継ぎ、彼もまた多くの歌を現代に残しました。遍照のの息子、素性法師の歌を今日は見ていきます。

“おとにのみ　きくの白露　よるはおきて　ひるは思ひに　あへずけぬべし”

（あの人を噂にばかり聞いて、菊の白露が夜は置き、昼は耐えられず消えてしまうように、私も夜は起きてばかりいて昼は恋しい思いに消えてしまいそうです。）

“はかなくて　夢にも人を　見つる夜は　あしたの床ぞ　おきうかりける”

（あっけない有様で夢に恋人を見た夜は、朝の寝床から起きるのが辛い。）

“今来むと　言ひしばかりに　長月の　有明の月を　待ち出でつるかな”

（あの人が「すぐ来るよ」と言ったばかりに、私はこの長月の夜を待ち続け、とうとう有明の月に出遭ってしまった。）

“思ふとも　かれなむ人を　いかがせむ　あかず散りぬる　花とこそ見め”

（いくら恋しく思っても、離れてゆく人をどうしよう。見飽きないまま散ってしまう花だと思って諦めよう。）

“わすれ草　なにをか種と　思ひしは　つれなき人の　こころなりけり”

（恋を忘れるというわすれ草は、何を種にしているのだろうと思えば、冷淡な人の心であったよ。）

“忘れなむ　後しのべとぞ　空蝉の　むなしきからを　袖にとどむる”

（忘れてしまった後も、私のことを慕ってくれと思って、蝉の抜け殻をあなたの袖に残していきます。）

特に３番目の歌は、今日でもとても有名な歌で、遍照か歌った歌とよく似ていますね。「必ず行くから待っていてくれ！」という男との約束に人生を縛られる女性の歌ですが、どんな気持ちで夜を過ごしていたのだろうかと考えると胸が苦しくなりますね。
素性法師もまた父親の遍照のように文才に恵まれ、女性の立場にたった歌を多く残す一方、しつこい男性像を思わせる歌も歌っています。一番最後の歌は「別れた後も俺のこと好きでいてよ。好き過ぎて死んじゃうぞ！！！」と、若干脅迫が入っている歌のようで、いつの時代にもストーカー気質の男性がいたことを思わせます。
先述の歌のように、

「どんなに好きでも、花が枯れることを止めない様に、恋が終わることも止められないからすっぽり諦めよう」
と言っていたのに、いつのまにか
「忘れ草の種ってどんなんか知ってる？冷淡さだよ。冷たいヤツだったよ、お前はよ。」
「別れてもオレのことを忘れられないように、お前の袖にセミの抜け殻を置いといたわ。」
法師様なのに、ちょっと手におえないどころか怖いですね・・・。

付き合っている男性がそういう相手なのかどうかを見極めるのは難しいですが、やはり「いろんな男性がいるんだな」という言葉に尽きるみたいです。
それでも我慢する必要はないと思うので、困ったちゃん男子に惑わされている女性陣はしっかり、はっきり別れられるよう自分から切り出していく勇気を持っていてください！

詠み人プロフィール

素性法師（そせい　ほうし）
生年不詳-延喜10年（910年）頃

平安時代前期から中期にかけての歌人・僧侶。桓武天皇の曾孫。遍照（良岑宗貞）の子。俗名は諸説あるが、一説に良岑玄利（よしみねのはるとし）。三十六歌仙の一人。
素性は遍照が在俗の際の子供で、兄の由性と共に出家させられたようである。素性は父の遍照と共に宮廷に近い僧侶として和歌の道で活躍した。はじめ宮廷に出仕し、殿上人に進んだが、早くに出家した。仁明天皇の皇子常康親王が出家して雲林院を御所とした際、遍照・素性親子は出入りを許可されていた。親王薨去後は、遍照が雲林院の管理を任され、遍照入寂後も素性は雲林院に住まい、同院は和歌・漢詩の会の催しの場として知られた。